洞窟の日

わたしはとくべつな日が大好きな人間である。一年に一度だけめぐってくる日、というのは最高。

たとえば、いくつかの誕生日、クリスマス、衣替え(これは年に二度だけれど)、年末に街に出て手帳を買いに行く日、ポタージュの日(我が家は秋のとびきり冷える日に、ポタージュをつくって寒さがやってきたのを祝います)、高級チョコレートをあげたり食べたりする日。

そういったスペシャルデイズのなかで、あんまりうれしくない日はお正月のみ。実質的になにも変わることなんてないのに、たしかになにか取り返しがつかなくなるような感じがして、年越しの瞬間は子どものころから苦手だ。

 

独自の記念日はたくさんあるが、この季節になると恒例行事として、洞窟にもぐりに行くことになっている(これに関してはとくに理由はない)。

今年は、北九州市小倉にある千仏鍾乳洞へ行った。鍾乳洞のうえは、見渡すかぎりカルスト台地で、こんなに見事なカルストをみたのは初めてで大満足だった。そよぐすすきをみたのは何年ぶりだったろう。しろい点々としたカルストはにょろにょろの大群のようで心躍った。ひさしぶりに福岡県内でよい観光名所にめぐり出会えてうれしい。

 

この時期はもう閑散期のようで、洞窟にはわたしたち以外にだれもいなかった。LEDが各所に煌々と照っているものの、やっぱり洞窟のなかというのはうすら寒くて、水音が反響しているだけでなんの音もしないので、開拓者のような心もちになる。挑むように、つぎの足場を探す。

とくにこの千仏鍾乳洞は、途中から水の中をすすむので、バラエティ性も高い。

いちばん深いところで、ひざまで水かさがあり、もはや洞窟探検&水遊びである(サンダルを入口で借りれるようになっていて、更衣室もある)。水が混じりっけがなく、とてもきれいでおどろいた。泥や砂利などが、洞窟内にほぼ皆無なのだ。年中14度の澄んだ水は、そのまま口をつけて啜りたくなるほど謎めいてうつくしかった。じっさい、この水を使ったコーヒーを入口の茶屋でいただけるらしい。

 

洞窟の醍醐味はさいごにあるといっても過言ではない。洞窟の入り口にもどると、じぶんがとざされていたことを思い知る。陽のひかりや自然の色彩のゆたかさに目を奪われ、まるでひさしぶりに地球に足を踏み入れたような気持ちになる。

映画館を出たときとおなじ感覚。よりも、もっと気持ちがよい。じぶんの発する声がひびきを失って、ぶつりと途切れた音になることに、ちょっと安心感を覚えたりもする。

お土産に、千仏焼きの鉢を買った。近くのお寺の尼さんのおばあちゃんがひとりでやっている窯のもので、おせんべいの雪の宿みたいな見た目をしている。くだものを盛って、食卓の真ん中に置いた。

 

夏であれば、もっと水を愉しめるのだろうけど、夏はかなり混雑していて、通路がせまいので渋滞がおきるらしい。やっぱり夏はどこもひとで溢れかえってしまうんだな。