七つの大罪

七つの大罪

てっきり、ゴダールやクロード・シャブロルが参加しているものかと思い借りていたが、古いほうの七つの大罪だった。
こんなにおもしろいオムニバス映画を観たのは初めてだ。可笑しくて大笑いした。
もちろん、わたしが爆笑しただけであって、まっとうな意味で爆笑できる映画ではないんだけれど。一緒に観たひとは、わたしがあんまり笑うんで、不審がっていたくらいだし。

参加している監督は、エドゥアルド・デ・フィリッポ、ジャン・ドレヴィル、イブ・アルグレ、ロベルト・ロッセリーニ、カルロ・リム、クロード・オータン・ララ、ジョルジュ・ラコンブである。この監督のなかで、観たことがあるのはロッセリーニのものだけだ。ほかは、名前すらほとんど聞いたことがない。この天才たちのほかの映画が、今はもうほぼ観られないなんて、ほんとに嘆かわしいことだ。

このオムニバス映画には、案内人的な人物がいて、それはカーニヴァルの的当て屋なのだが、ここの設定がよくできている。ボールをぶつけて倒す的が、七つの大罪をそれぞれあらわした人形で、お客がそれを倒すたびに、その的当て屋が、倒された大罪の物語を語るという体で、それぞれの作品が始まる。このシークエンスは、第7話のジョルジュ・ラコンブが担当している。いかにも古めかしいセットの映像で、オールディーな映画なのかなぁと思っていたが、はじまってみると、どの作品も現代的な感覚と機知に富み、それぞれの監督の類まれなセンスに隅々まで色取られていて、そのコントラストには感激した。

ちょっと面倒くさいけれど、どの監督が、何の罪を描いたのかを記す。

1.強欲と怒り エドゥアルド・デ・フィリッポ
2.怠惰 ジャン・ドレヴィル
3.色欲 イブ・アルグレ
4.ねたみ ロベルト・ロッセリーニ
5.暴食 カルロ・リム
6.高慢 クロード・オータン・ララ
7.第八の罪 ジョルジュ・ラコンブ

強欲と怒りは、エドゥアルド・デ・フィリッポの作品で同時に扱われたかわりに、第八の罪というなぞの罪が最後に登場する。それで全7話である。
どの話も本当にほんとうにおもしろくて、おかげでまたもやロクな文章が書けそうにないが、とくに好きだったものを3話紹介する。

まず、第2話の『怠惰』。いちばん好きだった。監督は、ジャン・ドレヴィルだが、脚本は第5話で監督したカルロ・リムがオリジナルで書いたらしい。
是枝裕和の『ワンダフルライフ』に設定は似ていて、それのコメディ版のようなかんじ。
天上で、書類の山に埋もれ、あせくせと働く専務という肩書きのかくしゃくとしたおじいさん天使?聖人?の行政官聖ピエールが主人公。彼は神さまの右腕といったところで、死んだ人間に最後の審判をくだす手伝いをする会社の上役である。
雷をゴロゴロ鳴らし、ピエールに仕事を言いつける神さまが、けっこう破天荒で笑える。
神さまは、昨今、死んで裁きを受けにやってくる人間たちがあまりに悲惨な人生を送っているのを見かねて、生活にゆとりをと、封印されていた怠惰の女神を下界へ降すことをピエールに命じるが、その効き目が絶大で、今度は下界では誰ひとりとしてまともに働かなくなってしまった。またまた怒った神さまが、ピエール自身に下界へ降りて、現状を回復させるように命じ、ピエールはやっとのことで怠惰の女神と話しをつけ、ようやく下界は平穏を取り戻す。そしてピエールもめでたくお役御免で、神さまにゴロゴロと呼ばれ、天上へ戻ってゆく・・。というお話である。

カット割りのテンポが見事だった。役者の身ぶりとカット割りの調和が取れていて、快いくらいだった。短い映画には、この要素がほんとうに必要なものなのだと感じる。
ぼけーっと観ていても、その作品の世界観にしっかり入り込めて、たったの20分程度の作品なのに、ずいぶんと体感時間が長い。おそらく、フィルムの合成による特殊な映像もたのしかった。

つぎに好きだったのが、第5話のカルロ・リムの『暴食』。単純に、信じられないくらいにおいしそうなチーズが登場する。ウォッシュチーズみたいに見えたが、ほんとうに天上の食べ物のようだった。まっしろで、ふさりとやわらかく、いかにも香り高そうなチーズで、チーズが苦手なことも思わず忘れて「食べたい!」と叫んでしまった。

第3話のイブ・アルグレの『色欲』は、話しの筋がすごい。可笑しみのなかに、しずかに色濃い影が落ちていて、ラストシーンでは、主人公の冴えない少女から、ハッとするような妖気を感じておどろいた。

ロベルト・ロッセリーニは、唯一知っていた名前なので期待して観たがいちばんイマイチだった。触れなかった第1話と6話は、ほとんど長編映画と言ってもいいような内容の濃さで、紹介したものよりは、真面目な作品。映画をつくるのが上手なのだ、この監督たちはみな。

ここに挙げられる罪を、わたしはもちろんすべて網羅して犯している。
わたしの人生に必要なものだらけで、否応なく愛してるものでもある。

当然バチカンも、これが時代錯誤(4世紀に定義されたものだから、当然)であることは認めていて、新七つの大罪なるものを2008年に発表している。
それは、遺伝子改造・人体実験・環境汚染・社会的不公正・貧困・過度な裕福さ・麻薬中毒(ウィキペディアより)。この内容じゃ、コメディ映画は取れないね。

第8話の謎の罪、気になるひとは、ぜひこの作品を観てみてください。
とってもたのしい時間になると思います。