海辺のコースター

海辺の遊園地を訪れる夢。

この夢は数年前から、ときどき現れる。

いつも、わたしは違う人間として、その景色にいる。
空はうすい桃色で、あともう少しで日が暮れる時間帯。
その空はかぎりなく澄み渡って、あまりの透度に風の気配が目に見えるようで、美しく破滅的な質を含んでいる。
この空の色は、ほかの夢でも見ることがある。
人影は多いのに、あまりにしずかだ。人々を、個々に認識することはできず、それは影でしかない。喧騒のしずけさというものは、ひとをあっさりと孤独にさせる。

そして潮風。日本海がすぐ左に広がっている。向うの大陸も見えている。佐世保と長崎市のイメージが重なっている。
その風景は、圧倒的に海辺の風景で、夢のなかでじぶんが、いたく感傷的になってしまう理由はそこにあるのだと思う。

そのコースターは、しかし遊園地の中にあるものではなかった。
遊園地の正面の入り口の前に、ゆるやかに海のほうへ傾斜しているだだっ広いアスファルトの空間にぽつんと立っていて、まわりはメリーゴーランドのように柵でまるく囲われていた。
それは、ディズニーランドにあるスタージェットのようなつくりで、ローラーはなく、白いフレームの周りを、じぐざぐにゴンドラが廻るものだった。背の低い、不恰好なコースターだったが、その際立った白色はきれいだった。

おもちゃじみた電飾が、ゴンドラを飾っていた。

ながい夢の一片で、わたしはそこに訪れていた。その夢のことはほぼ思い出せないが、わたしはそこに友人らしき痩せたきれいな女の人と来ていた。
わたしはいつも、ここへ来るたびに、そのコースターに乗りたいとつよく思う。

乗ると、もっとさびしい気持ちになるのは想像がついた。つよい潮風と、その夕暮れの色を、全身でまともに味わうことになるのだから。

そのきれいな女のひとは、きれいに微笑み、わたしに乗っておいでといった。
わたしは乗らなければいけないと思った。日が暮れきるまえに。