アラビアのロレンス

プレミアムシネマで、4K版を観た。BSばんざい。
60年代の4Kってどういうことなのかいまいち分からないけれど、でも信じられないくらい映像がきれいだった。最近の映画に匹敵する美しさだ。
どうやって撮ったんだろう・・・。制作費が莫大だったという話しをどこかで読んだことがあるんだけれど、お金をかけたらこんなにきれいな映像が撮れたということがそもそも驚きだ。同時代のヌーヴェルヴァーグの作品などの映像の粗さは、むしろ何事なんだ。

さいきん、三時間越えの映画を週に一本観ている気がする。この映画は207分もあった。二日にわたって三回に分けて観た。
翌日、また砂漠が見たくなり砂漠の場面を30分ほど眺めた。眺めるだけでいい。砂漠中毒になった。

時間をこえて名の残った映画ばかり観ているから、いつも感動しすぎてしまう。わたしが感情過多ぎみなせいもあるんだけど。そのわりに、アウトプット(いやなことば!)がへたなので、たいていは泣いて解消するから、周囲のひとにはぎょっとされる。

このログで、すばらしかった、って連発しすぎて、わたしのそういう類の語彙が価値を落としはじめてる気がする。そのうちウルトラとかハイパーとかアルティメットみたいな形容をし始めるかもしれない。そうなったら注意してやってください。

デヴィッド・リーンの映画ははじめてだった。イギリスで活動した映画監督の作品のなかでは群を抜いてすばらしかった。
あまり話しの筋は頭に入ってこない。史実や地理をよく分かっていないので、ラストも何がなんだかという感じなったが、あまり気にならなかった。ふだんは話しの筋が分からなくなるのが無性にいやなのに。全編、ほぼおなじような砂漠の景色ばかりで、時間や距離の感覚が途中からつかめなくなるのが気にならなかった理由だと思う。
ただずいぶんと長いあいだ砂漠にいた。観ている側まで、そんなふうに砂漠にのみこまれてしまった。

構成がなによりすばらしい。冒頭とラストのあの疾走。緑と砂の対比もよかった。映画が終わって、おもわずまた冒頭を観なおした。バイクで事故を起こす直前、大きなゴーグルをつけていて完全な表情は見えないが、ロレンスは目に光を湛え、恍惚とした笑みを口元に浮かべ、身をかがめてスピードを上げる。最初、わたしは、彼があえて事故を起こしたのではないかと思った。けれど全編を観てみると、そうではないことは明確で、そしてラストで強烈にこの冒頭シーンを彷彿するのだ。
けっきょくやっぱりものを言うのは構成だなぁと思う。
この映画はいかにも典型的な英雄を描いたものだけれど、その英雄がかれ自身の英雄行為をどんなふうに受けとめたか、ということがこの映画のミソで、この構成にはほんとに感服だった。

主演のピーター・オトゥールは、顔立ちと声質がとても濃厚で、あんまり好きなタイプの俳優ではない。
後半の演技はとってもすごかったと思うけれど。だれにも理解されない孤高の存在という印象を、しっかりと打ち出していた。役者にとっても製作者にとっても苛烈な現場だったんだろうなぁ。ピーターのあの病的なかんじは、撮影によって生じた要素も含まれてると思う。

登場人物たちはだれもが背筋がピシッとしていて人物描写に統一感があって観ていて快かったのだけれど、わたしがとくに好きだったのは、名優アレック・ギネスが演じたファイサル一世だった。かれの台詞は、脚本のなかで際立ってよかったように思う。陰の主役だった。
アレック・ギネスといえば、スター・ウォーズの前半シリーズのオビ=ワン・ケノービ役がやっぱり印象深い。かれはスター・ウォーズに出演したことをとっても悔いたそうだけど。ぜんぜん熱心なファンじゃないくせに、スター・ウォーズのネタが多くて恐縮ですが、スター・ウォーズのキャラクターのなかでも、やっぱりわたしはアレックがすき。これって一般論か。
アレックのなにがすばらしいって、そのたたずまいだと思う。ただものじゃない感がすごい。そこに派手さがみじんもなく、上品であるところが、わたしが彼をすきないちばんの理由だ。イギリス紳士ってやっぱりすてき。

それと印象に残ったのは音楽。作曲者のモーリス・ジャールはこの作品で、アカデミー賞作曲賞を受賞している。
きっとだれもが聴いたことのあるあのメロディが、何度も何度もほぼおなじパターンで挿入される。決然とした耳に残るメロディだ。
これは好き嫌いによると思う。ちょっとくどい気もしたけれど、ある意味あの砂漠の映像はくどいの域をこえているので、音楽もあれでよかったんだろうな。
かれが音楽を担当した映画をほかにもポツポツと観ていて、たいていどれも好きだった。音楽がとくに印象に残っているというわけではなく、映画全体としてだけれど。

この映画では、かわいい小型のラクダやきれいな馬がたくさん登場する。これはあまり心理的によくない。
映画のなかで動物が死ぬシーンがあると、かならず度を失ってしまう。本編の筋から心が離れてしまうほど、かなしくてほとんど傷つく。
それで「ほんとうには死んでないから大丈夫だよ」なんて、一緒に映画を観ているひとに呆れ顔で言われるのだが、そんなことはもちろん分かっている。
もっとタチの悪いことに、出てくる動物が死ななくとも、虐待されているのではないかという不安が頭から離れないのだ。
映画のために、怪我を負ったり、無理をさせられたりしたんじゃないかとおもって、気が気じゃなくなる。
これはべつにわたしが心優しいでしょというのを主張したいわけではぜんぜんない。死んだり傷ついたりするのが人間だったら微塵もどうってことないのだ。
じぶんでもふしぎな現象だと思う。むかしはここまで極端ではなかったのに。

最後はどうでもいい話になってしまったけれど、すばらしい名作でした。
映画館で観たい映画ナンバー1です。