常飲している処方薬を、たまたま3連休の前に失くしてしまい、4日間まるまる飲まないでいた。

突然服用をやめると、危険な症状の出る薬で、すぐにその症状は出てここ数日朦朧とながら過ごした。

力がふっと抜けて倒れそうになったり、動悸、目がぐるぐる回ったり、手足が痺れて感覚がなくなったり、けっこうヘビーな体調不全だった。

昨夜お風呂を上がってからずっと、鳥肌が止まず、厚手の寝間着をきて布団にしっかりくるまって寝た。となりで寝るかれは、「そんなに着たら、汗かいちゃうよ」と言ってたけど、悪寒がするから仕方なく。

 

そして見た夢。

わたしは父とおばあちゃんと夜中、バーでお酒を飲んでいた。

そのバーは〈スノー・ドーム〉という名の店で、なるほど店内はガラスの球体だった。

しかし雪はスノー・ドームの外でしんしんとふり、わたしたちはふる雪をぼんやりと眺めていた。

このまるいガラスは、どこかのビルの屋上に乗っかっているようで、窓からは街中を見下ろせた。すこしだけ寂れた街。安っぽい飲み屋のネオンも、この窓からは情緒たっぷり美しかった。札幌のようだった。

 

店内は無音であたたかく、湿っていた。

父はブランデーを、わたしとおばあちゃんは、ウィスキーを飲んでいた。

わたしとおばあちゃんは、バーのスツールに座っていて、父はすこし離れたところの赤いエッグチェアに深々と座り、上機嫌にたばこを吸っていた。

(現実でも、父もおばあちゃんもびっくりするくらいよく飲む、いつでもなんでも。日本酒にしろワインにしろ、一杯一杯、真剣に悩みあぐねて注文する)

バーテンダーは中年の端正な顔をした男で、わたしの注文するものに、毎回一言反論めいたことを言った。

わたしがトリュフを注文すると、

「この二つはさほど変わりませんが」とか、

「このお酒はそのチョコレートとは合いませんが」と早口に小さな声で。

わたしもムッとしたが、わたしよりもおばあちゃんが苛々していた。

「それでいいの」と、おばあちゃんはせっかちに手をふった。

注文した三粒のチョコレートがつややかなカウンターに並べられた。わたしは抹茶粉のかかったトリュフをたのしみにしていた。

 

そのチョコレートは強烈な経験になった。

まるでドライアイスのように、それが熱いのか冷たいのかわからず、わたしは一瞬にしていろんな感覚から切り離され、耐え難い自分の頭の重みだけを感じた。

なんどまばたきをしても、目の前が危険にまばゆき、ろくに目の前が見えなくなった。

トリュフではなくチョコレートボンボンだったようで、ものすごいアルコール度数だった。そしてそれ以上に、いまでもうっとりしてしまうほど濃厚でおいしいチョコレートだった。

しばらくして、感覚が戻ってくると、自分がぐらぐら揺れていることがわかった。

父はのんびり意に介さず座り続けていたけれど、おばあちゃんとバーテンダーはわたしの周りでおろおろしていた。

遠くで父が「ちさとはどれだけ飲んでも平気だから、心配するな」と言っているのが聞こえた。

おばあちゃんは立ち上がって、わたしの頭を両手でかかえた。ちょうどおばあちゃんの下腹に、わたしは顔をうずめた。

「大丈夫ね?」とおばあちゃんはわたしの頭を撫でた。

すーっと気持ちが落ちついた。

おばあちゃんが着ている白いセーターからは、おばあちゃんが昔から使っている柔軟剤の香りがして、そこに、わたしは目を閉じているのにじぶんの目が映っているのをみた。

モノクロの、初期のシュールレアリズム映画のような映像だった。

わたしの大きな眼球は半透明で、それはくるくるとまわりながら、まぶたはないくせに不規則にまばたきをしていた。

 

そこで目が覚めた。

びっしょり汗をかいていて、喉がからからに乾いていた。

わたしはもこもこした寝間着を脱ぎ、ベッドをすべり降りて、つめたいフローリングにできるだけぴったり全身をくっつけた。ロジェが寄ってきたので背中を撫でるとひんやりした。ロジェがひんやりなんて、そうとう体温が上がってたんだな。