五時から七時までのクレオ

1962年に女流映画監督アニエス・ヴァルダが撮ったフランス・イタリアの合作映画。
アニエス・ヴァルダは、2000年代もコンスタントに映画を撮っているイメージがあるが、わたしはこの映画しか観たことがない。かわいい映画だった。

印象的なオープニングクレジット。
古色なテーブルクロスの上にタロットカードが一枚ずつ並べられるごとに、カードの上にこまかな文字が現れる。占い師の老いて皺だらけの手と、美しい主人公の白くほっそりとした手が画面を横切り、五時をすこし過ぎた時計が示され、物語が進行し始める。魅力的な冒頭で、やはり女性のつくり手特有の甘やかさがにじみ出ていて、映画に引き込まれた。
主人公である歌手のクレオの、夏至の日の午後五時から七時まで、時間軸を正確に描いた物語で、クレジットにより分単位での具体的な時間が示される。
ヌーヴェルヴァーグ・左岸映画というものを、ほとんど観たことがなかったけれど、たしかに右岸派の作品とは気配が違っていておもしろかった。特徴的なカメラワークは別段いいとは思わなかったけれど、景色にやけに臨場感があり、クレオが訪れるどの部屋も道も美しく、記憶に残る映画だった。
作中での出来事はきっちり二時間という設定だったが、とても二時間では遂行できないだろうというのが正直なところである。
その二時間の出来事を要約してみる。クレオは五時から七時のあいだに、占い師にタロットカードで占ってもらい、街の帽子屋で買い物をし、タクシーに乗り自宅へ帰る。そこで恋人とのつかの間の逢瀬があり、彼が去った後にやってきた彼女の作曲家と作詞家との会合。それから家を飛び出し、街をぶらついて、喫茶店でお酒を啜る。その足で友人がモデルをやっているアトリエへ赴き、彼女の運転でパリの街をドライブし、彼女の恋人でありクレオ自身も顔見知りである男のスタジオへ行き、そこでちょっとしたサイレント映画を観る。その後タクシーで友人を家まで送り、クレオは彼女の家のそばにある広い公園でタクシーを降りる。公園のなかにある滝の前で、帰休兵だという男に声をかけられる。クレオはここ数日、自分をおびやかしていた死の兆候を彼に打ち明ける。夕刻、クレオはかかりつけの医師に会って検査の結果をきくことになっているのだ。しかし打ちひしがれて気力のないクレオを、男はバスで病院に連れていく。そこで医師から、検査の結果を報告されるのだ。
密度の濃い二時間だ。わたしでは一週間あってもこなせそうにない。
クレオ役のコリーヌ・マルシャンは、とっても美人というわけではないが、愛嬌と貫禄が同居する素敵な女優だった。ウィッグを取ったときに現れる、切りっぱなしのさっぱりとしたブロンドヘアと横顔が、可憐で一気に彼女を好きになる。いいシーンでした。衣装もとってもかわいかった。
なじみぶかいヌーヴェルヴァーグの面々のカメオ出演を発見するのもたのしいです。

作中で、迷信に関する要素が多々出てきて、迷信に対する印象ががらりと変わった。迷信を信じるなんて、年寄りくさくて人には言い難いものだと思っていたが、迷信をまじめに信じる女性も、なんだか危なっかしくて、世間ずれしてなくて、それはそれで魅力なのかも。62年にしては、DVDの画質が悪かったのが残念だった。