世界の涯てに

近所の市立図書館で、ダグラス・サーク監督のドイツ映画『世界の涯てに』を観る。

 

強烈なドイツ語映画だった。舞台はロンドンとシドニーで、主役たちはロンドンっ子という設定にもかかわらず、はきはきとドイツ語をまくしたてるので、おしまいまで悶々としながら鑑賞した。それになにより、ヴィリ・ビルゲルがイギリス貴公子には見えるわけがない。
それでもこれも、古い映画の醍醐味だと割り切って、新鮮なきもちでやりきる。
ヒロインのツァラー・レアンダーはとてもよかった。スウェーデン人らしい体型とひくい声は凄味があり、こういうタイプの女優はやはりヨーロッパ映画特有のすばらしい要素だとおもう。この時代の女優の眉は、女の表情を夢見がちにみせるから好き。ツァラ―の声はかなり独特で、いつまでも耳に残る。言ってしまえばドスのきいた声だけれど、彼女の声はあたたかみがいちばんにあって、ふしぎと心細そうにひびくので、彼女のことがとても好きになった。のちのナチスとの関連のせいか、いまはあまり評価されていないのかな。

起伏のはげしい、べたべたのメロドラマなんだけれど、筋もちゃんと通っているし、細部まで気が配られているので、結末が見え透いた感じもなく、最後まで精度を保っている。シドニーが舞台の映画は初めて観たな(たぶん)。もちろん、ロケはドイツでしているだろうから、オーストラリアらしさはほぼ感じ取れないけれど、そういった、めんどうというか突飛な試みに、正面切って挑む姿勢は、いまの映画製作には感じられないもので惹かれた。ダグラス・サーク監督は、奥さんがユダヤ人だったので、アメリカに亡命し、ハリウッドでもたくさん映画を撮ったそう。
人物描写もとてもていねいで、ヴィリが出世のために近づいた、総督の令嬢の魅力の欠けっぷりなんかも、あまり映画でお目にかかれないタイプの女でおもしろい。周囲のひとを風刺画にしてたのしんでいる、というのは色っぽい趣味ではないでしょう。ツァラーとの対比がよく効いていて、そういった人物の登場は、単なる娯楽映画から一線を画した深みにつながっていた。

これはツァラー・レアンダーをあじわう映画であることはまちがいなく、彼女のこっくりとした気配の濃さが映画じゅうに漂っていて、なんだか酔っぱらったような心もちになった。つぎは、もう少し円熟したストーリーで、いい女を演じている彼女を観たいな。