誘惑のアフロディーテ

1995年のウディ・アレン監督映画『誘惑のアフロディーテ』

半年くらい前にHuluで観た。とくべつ観たかったわけじゃなく、ほかにいいものがなかったのでなんとなく観ただけだが、いままで観たウディ・アレンの映画のなかで、いちばん好きだったかも知れない。

女優ふたりがよかった。ウディの妻役で、一応主演女優のヘレナ・ボナム=カーターは、かなり見慣れた女優だが、こんなに都会的な役柄を演じている映画を観るのははじめてで、新鮮だった。それにずいぶん美しかった。青みがかった白い肌と、濃い黒髪の対照が画面に映えて、繊細な顔も際立っていた。イギリス女性として、ニューヨークが似合っているかんじ。いままでに観たウディの相手役のなかでは、いちばんウディとお似合いだったのもおどろきだ。
ミラ・ソルヴィノは、まあアフロディーテに相当するわけだが、この作品で、その年の映画祭で助演女優賞を総なめにしてる。まあ実際すばらしい演技で、オスカーももらって当然、と思うのだが、納得はいかない。題名も映画のポスターもミラなのだから、彼女は主演女優だったのじゃないかと思う。登場シーンも、ヘレナよりも倍くらい多い。
渡辺謙が『ラストサムライ』で受賞を逃したときも、「かれは主役も同然だったし・・」みたいなことが言われたけれど、まあそれとおんなじようなことなんだろう。『ラストサムライ』は観たことないから、よく分からないけど。

ウディの映画は、いつも部屋の内装がすばらしい。だいたいはアパートの一室で、ワンルームであるときが多いと思うが、家具や壁紙、じゅうたんやクッション、その他の道具(っていうのかな?)のセンスがよくて、映画とのなじみもよくて、すっかりあこがれてしまう。とくに最近、部屋の内装とか家具に興味があるので、なおさらウディの映画は観ていて目にたのしい。
半年前に観た映画なので、記憶があいまで詳細は書けないが、ベッドだけはよく覚えている。
こぢんまりとしたベッドで、ウディとヘレナの部屋の中央に置かれたのだが、いままでに見たベッドのなかでいちばん素敵だった。ふつうのベッドよりも低めで、フレームもベッドボードもないが、寝具としてのあたたかみだけがきちんと残っている、そんなベッドだった。

この映画は、作中で、どこか(シチリア島?)の遺跡で演じられるギリシア悲劇が作品のミソになっていて、これが本格的で見ごたえがあってずいぶんおもしろかった。つねづね、こういった劇を見てみたいと思っていたので、いい映画鑑賞になった。
コロスたちをはじめ、デウス・エクス・マキナやカッサンドラなんかが登場し、ウディの日常生活に侵食してきて、物語が進行するのだが、とってもおもしろい試みだったと思う。オイディプスの物語が、大きくストーリーにかかわっていたのも、このあたりのギリシア神話を勉強したばかりだからおもしろかった。

ウディは実生活もアレだし、まあいろいろな欠点はあるのだろうけれど、いつもいい意味での女好きなんだと思う。
女にたいして、ウディが求めているものが、いつもシンプルで感動する。それはわたしには正義とおなじことに思える。それにこれは、彼の映画のつよみなのだろう。
ウディみたいな男といたら、まあだめになる確率も高いけれど、女はのびのびしていればいいんだろうな。

とにかくミラに惹かれる映画で、こんなふうに不幸でやさしい娼婦がほんとうにいれば、世の男たちはもう少しよくなるんじゃないかなぁ。あんなに肉感的な体をしているのに、どこまでも邪気がなくあどけない顔をしていて、切ないくらいだった。

 

それにしても、どうしてウディの映画は、こんなにも街の気配が濃いのだろう。知らない曲たちだけれど、音楽もつねにいい。
きっと、ふとテレビをつけてウディの映画がやっていたら、ウディの映画と分かる前に、ニューヨークのお話しだと気づくだろう。