ボッカチオ’70

さいきん立て続けに観ていたオムニバス映画の最後の一作。感想。
マリオ・モニチェリ、フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ヴィットリオ・デ・シーカの4人の映画監督による、4本の短編映画が収められている。
題名はもちろん、14世紀の中世イタリアの作家ジョヴァンニ・ボッカッチョに由来するもので、『デカメロン』を意識しているのだと思う。
この本は、20頁くらい読んだだけで挫折したので、概要しか知らないのだけれど、オムニバス映画を作るのにぴったりな題材だと思う。みんなイタリアの映画監督だし。
あまり関係ないかもしれないが、『デカメロン』という題の映画を、1971年にパゾリーニが撮っている。これも観てみたい。

盛りだくさんの内容だったので、箇条書き程度に淡々と書く。
4本とも、魅力的な女性を描いた物語で、まさに艶笑コメディであった。
前半の二本、モニチェリとフェリーニのものがおもしろく、後半のヴィスコンティ、デ・シーカのほうが薄弱な印象。
このなかではモニチェリの映画だけ観たことがないのだが、日本では当時からそもそも彼の映画は公開されていなかったようで、DVDもあまり販売されてないみたい。日本人が好きそうな映画なのに。
そのモニチェリの『レンツォとルチアーナ』では、ずいぶんかわいいヒロインが登場する。マリサ・ソリナスという名の女優で、この映画以外は、あまり名が知られてないようだが、わたしはいい女優だと思った。まなざしが子どもみたいで、首のかしげ方がかわいい。日本人好みの女の子という感じ。
特筆すべきはそのリアリティで、このレンツォとルチアーナとおなじように生きている恋人たちが、きっと当時、いたるところに実際生きていたんだろうなと思えることにある。こんな美男美女ではないでしょうが。そして今これを観て、いい時代だったのだなと思える。堅実な脚本でありながら、役者たちの陽気さにより、それが良質なコメディとして成立しているのは観ていて快かった。

ラストシーンがよかった。2000年代の映画のようなラストだった。
明け方のアパートの寝室で、すれ違いに眠る生活をするふたりのベッド。男はベッドにもぐりこみ、寝付く前に、女のぬくもりを求めるようにしずかに彼女の枕にすり寄る。
疲労と、夜明けの青白さの表現がうつくしかった。

ふたりの結婚式のシーンもおもしろかった。本来、結婚というのはこんなふうなものだったのに。どうして日本人は結婚式に執着するようになったんだろう。わたしは現代日本の保健所と結婚式ほど憎悪すべきものはないのじゃないかとよく思う。結婚式には出席したことはないんだけれど。人類愛が足りてないの。
それと、この映画はマリンスタイルのお手本でもある。登場人物たちが、めちゃくちゃに混んだプールに行く場面があるのだが、そこで往来する女性たちの水着がどれもかわいかったこと。さすが60’s。マリサのワンピースも麦わら帽も、いちいちかわいかった。ことしは水着を新調したいな。

そしてフェリーニ。べらぼうにおもしろかった。でもたぶん、おもしろく思ってるのなんてわたしだけなんだろうな。
フェリーニの映画は、何本観ても監督の人物像がまったく形成されない。

それでも、いくつかの断片的な逸話から、なんとなくだが彼のイメージを持ってはいる。そのうちの多くは、彼の没後10年を記念して作られた『 フェリーニ~大いなる嘘つき~』というドキュメンタリーからだけれど。
彼はすごくモテてたらしく(なんとマストロヤンニ以上)、女ぐせが悪いというのか、何の憚りもなかったのか、ジュリエッタはずいぶんつらい思いをしていたらしい。
それでもフェリーニはジュリエッタの料理がとても好きで、とくにパスタは絶品だったようで、最後にさっとレモンをひと絞りするのが彼女のレシピのポイントだったという逸話も興味深かった。
以来、わたしも真似して、トマトソースのパスタのときは、最後にレモン汁を振るようになった。
フレッシュレモンじゃなくて、市販のプラスチックのレモン型容器のやつだけれど。でもこれって、だれでもできることよね。

フェリーニの『アントニオ博士の誘惑』のヒロインは、麗しのアニタ・エクバーグである。去年訃報のニュースがやっていましたね。
イタリアの美女というのは、人間というよりは、美しい馬とか車みたいだとよく思う。このアニタもすさまじかった。
どうしてこんなにばかげていとおしいストーリーを書けるんだろう。看板のアニタが一瞬べろべろばあをしているさまは、あまりのことに、逆戻りして三回ぐらい観た。
フェリーニは天才で、それ以上のことはなにも書けない。
ほかの同時代の映画監督に対してさぞ優越感を抱いていたことだろう。なんとなくそう思う。彼は俳優の扱いもいつだって彼一流で、俳優はきっと、そこでしか命を与えられているような気がしなかっただろう。アニタなんかは、とくにそうだったんじゃないかな。

ヴィスコンティのは、あまりよくない。主演はロミー・シュナイダーだったが、彼女の映画を観たのは初めてかもしれない。
それとデ・シーカ。官能的だが、なんとも幼気な主役を、ソフィア・ローレンが演じている。
デ・シーカは、名画『ひまわり』でもソフィアと組んでいるけれど、この映画はマストロヤンニがふわふわオムレツを食べるところくらいしか記憶に残っていない。
ソフィアは、それこそ人間というよりも、国宝級の馬みたいにしていて、なんだか怖い。
それにあの目。銀幕女優的で、もはやああいう美女が重宝される時代は過ぎてしまったのだろう。
この作品も、駄作とまでは言わないが、間延びしていてたいしておもしろさはなかった。前半2篇が、わたしは好きだった。
なかでもやはり、フェリーニの存在感が大きく、あらためて彼の映画史のおける存在感を思い知った。

ひさしぶりに『8 1/2』でも観ようかな。