楽園からの旅人

オルミの映画を観るのは3作品目。
わたしにとってオルミは不思議と印象の薄い監督で、どちらかというと好感を抱いてはいるが、とくに作品を好きになりはしなかった。

そのぼんやりとした好感というのは具体的に、確固たる特色がないゆえのものだと思う。毎回、初めて観る監督の作品のように見える。
そうやっていつも別人のように色の違う映画を世に出すことに、彼は並々ならぬ誇りを抱いているんじゃないかなと感じる。
初めて観たオルミの映像は、オバニズム映画の一編で、艶やかで芳醇な作品だった。あんなふうに豊かな時間を感じたのは久しぶりだった。
次に観た72年のパルムドール受賞作『木靴の樹』は、スケールの大きい典型的なタイプの大作、それで今回観た『楽園からの旅人』は技巧的でどこかアーバンなテンポのある作品だった。
おもしろいほどにそれぞれ印象が異なり、わたしは彼の映画のことを考えると「作家」ということばが頭に浮かぶ。

そういえば、わたしがすごーく大好きなリヴェットの映画『ランジェ公爵夫人』の製作にも、オルミは関わっているそうで、おおよそわたしが世界一好きな監督と仕事をしているということで、一気にオルミに親近感を抱いた。

話しを戻す。『楽園から旅人』の主人公は老いた聖職者である。
聖職者が登場する映画というものも、何本も観てきたけれど、とくに連想したのはベルイマンの『冬の光』のグンナール・ビョルンストランドが演じた牧師だった。
ふたりとも、信仰に対して絶望する聖職者だ。
この映画の司教はベルイマンの描いた牧師ほど混迷してはいないし、理性的だったが、そうだからこそなお痛ましかった。

この映画は、最終的には信仰というテーマに行き着くのだが、その切り口は移民問題になっている。まぁ今を生きるヨーロッパの映画監督はこの問題を主題に描かずにはいられないのだろうな。
とくにオルミは初期にドキュメントを撮っていたひとだから、みすみす撮り逃すわけにはいかなかったのだろう。
けれどどうしても、現代の社会問題を芸術上で扱うと、おなじモチーフを扱った作品と印象が被ってしまう。もちろん例外もあるけれど、この作品はやはりどことなく見覚えのあるものだったように思う。

舞台的な演出と、劇的な青白い光、キレのある構図の明確なカメラと、内観的でごく自然な役者たちの演技の融合はとても見ごたえがあり、美的感覚の高さが伺えた。短い映画ではあるが、それを差し引いても観客を引きつけておく力の強い映画だった。

こういうテーマのわりには、ストーリーは単純明快で、起承転結もはっきりしていて観やすかったのだが、ただ気になったのがちょっと変な台詞が多いなぁということ。変というか、時代遅れというか、新鮮味がないというか。
「善行は信仰に勝る」という最終的な終着地も、まぁ感動するっちゃするけど…、とちょっと陳腐さを感じずにはいられなかった。
あまり大作というわけではないので、それでもいいのだろうけれど。監督がなにを目指したのかはよく分かる映画だったように思う。

いろいろと感じることの多い映画だったが、まとめると、まあ映像がかっこいい映画だった。とくに冒頭とラストはかなり印象的だった。

観終わって考えると、題名がとてもいいんです。内容とほんとうに色が合ってる。
原題は知らないけど、ぐっときました。

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