ガラスの城

久しぶりの映画感想。
新しいDVDプレーヤーは小型でかわいらしい。

尺は短いが、北イタリアのコモ湖畔から始まり、スイスのベルン、いちばんの見せ場のパリへと舞台が移り変わる。
ベルンはともかく、コモ湖畔はほんの数シーンながらリゾート地らしさが存分に感じられ、パリもいかにもパリらしい景色が続いて心踊った。
(パリなんてほとんど覚えてないけど)

パリの景色は、おそらく高い建物のベランダから見下げて撮っているショットが多く、人物は小さく、画面を大きく取ったアスファルトが建物たちの影に模様づき美しかった。

ルネ・クレマンらしい禍々しい雰囲気たっぷりのサスペンスふうの映画で、いつ殺人が起こるか事故が起こるかと構えて観る。
そしてストーリーに奇抜なところは見当たらず、不幸はラストにまったくの不運として起こる。
そうであるにも関わらず、随所に恋愛映画としてきらめきのあるシーンがあって感動した。

エヴリーヌは、夫なら解決法を見出せると確信して愛人のことを打ち明けようとするが、親友はエヴリーヌを制止する。
それに対しエヴリーヌは、愛していない夫のことを心の底から「あなたが知らないだけよ。あのひとはなんでもできる人よ」と友人に告げる。
造作ないシーンだが、ここでエヴリーヌの罪なき純朴さが伺える。

あとはパリのシーンが節々でよかった。

電話ボックスでレミーがエヴリーヌを見つけたときのシーンのセリフは小説的だし、東駅のレストランで、今からパリ中を歩き回ろうというレミーの提案に、エヴリーヌが嬉しげにパンプスからオックスフォードに履き替えるシーンなんかはとくに。

そしてエルメスでレミーがプレゼントに選んだパリの地図の描かれたエルメスのスカーフ。地図にはパリで生きた有名なカップルたちがシルエットで描かれている。
クレマンでさえなかったら、ただただ美しいパリのラブストーリーになったことだろう。

人物描写においてはなによりレミーの愛人マリリオンがいい。一見、支離滅裂に見えるが一貫したリアリティのある描き方が天才的だった。女優も上手かった。
鏡に向かってのあの涙は、なにかの映画を思い出したんだけどなぁ。ヴィスコンティのなにかだったような…。

ラストの構成については、そんなに効果的なものには思えないけれど、飛行機とFINの重なりはまぁシンプルでよかったのかなぁと思う。

前半、若干カット割りがうまくいってないような感じがあり、ストーリーに入りこむのに時間を要したが、気になるのはそこくらいで完成度の高い映画だった。
繊細な伏線や興味深い反復なども多く、突きつめて観ても実りの多い映画なんでしょう。