ローマ法王になる日まで

今月の「映画の日」の映画。
さいきんは、「映画の日」にしか映画館へ行っていない。
福岡の唯一のミニシアター系の映画館では出禁状態だし、シネコンの映画は大金(1800円)を払って観たいものも少ないし。

それでも最近は立て続けに佳作で、先々月の『ラ・ラ・ランド』と先月の『美女と野獣』は、それぞれ大満足だったけれど、今回はそれに勝る素晴らしい映画館での時間を過ごせた。

現ローマ法王のフランシスコの半生を描いた映画で、監督は詳細不明のダニエル・ルケッティというローマ出身の中堅監督。
かなり思いきった企画だと思う。

21世紀に入ってからの法王を皆わたしは好きだし、ベネディクト16世の苦しみにもつよく同情を感じる。

2013年の3月にフランシスコがコンクラーベで法王に選出され、その日のウルビ・エト・オルビをテレビで観たときからすでにわたしはかれが好きだった。
わたしは無神論者だけど、宗教の力はどこまでも信じられる。
かれの存在がすでに宗教めいたパワーを持っていて、そんな稀有なものにこころから寄り添える信者たちをうらやましく思ったことを覚えている。

そういうわけで、かれについての映画がつくられていると知ったときは大喜びした。

映画はほんとうによくできていた。
アルゼンチンの独裁政権期に焦点が当たっていたのがなによりよかった。
戦後のアルゼンチン史がさらっと確認できる。

フランシスコは、じっさい「汚い戦争」と正面切って戦ったわけではなく、どちらかといえば沈黙を通した。
ヒーローとして描かれるのかと思いきや、かれはただ苦悩し、弾圧への恐怖と良心のはざまで追いつめられてゆくだけだ。
(この時期のフランシスコの評価は今でも定まっていないらしい)

この辺りの構成がよく、かれはその戦争自体と自分自身に疲れきってしまう。

そして神学を学ぶために訪れたドイツで、かれは「キリスト」に出会う。
(貧しい人々の中に、イエスはいらっしゃるのです)という言葉が、ここで真に映像化されている。

このシーンのフランシスコの涙には感動した。
ひとりの人間ができることにはあまりに早いところに限界がある。
そうであっても同じ信念を生涯にわたって持ち続け、けっして腐れないこと。
想像以上に孤独で困難なことなのだろうけれど、信仰の力が多くの人間にそれを可能にさせてきた。
この映画には殉教する聖職者がたくさん出てきて、否応なくそのことを思った。
そしてそれを目撃しながらも、生き延びたフランシスコはいまバチカンにいるのだ。

主演のロドリゴ・デ・ラ・セルナが本当によかった。
そんなに本人に似ているような感じはなかったのに、オリジナリティでよく演じていたと思う。
ちょっと粗野なかんじはしたけれど、微妙な感情をくっきりと演じ分けていて、瞳の力がつよく引きこまれた。

ところどころ、笑いのおこるような場面もあって、その作り方もほんとにじょうずだった。
脚本はよすぎるくらいだし、映像も音楽も編集も役者もなにもかもよかった。
それなのに賞がもらえてないどころか、ノミネートもされていないなんてぜったいにおかしい。やっぱり宗教ものは賞が取りづらいのかなぁ。

あ、でもボーヴォワの『神々と男たち』はたくさんノミネートされていたような…。
すこし残念に思う。