祖父の最後の夢
先日祖父が亡くなった。
真昼間、ベッドでうつ伏せになって亡くなっていた。
体調が悪い様子は一切なかったらしい。
死相は生前の祖父の顔よりも柔らかな表情だった。
死因はおそらく強力な心臓発作でしょう、と警察が呼んでくれた医者が言っていた。
ジョージ・ハリスンにそっくりだったわたしのおじいちゃん。
都会っ子で、子どもの頃は少しでも雨が降っていると車でしか学校へ行かなかったらしい。
母が話してくれた祖父の夢の話し。
祖父は先代の猫ミイちゃんをそれはそれは可愛がっていた。白い大きな猫で、緑色の瞳をしていた。
ミイちゃんは童話のなかの猫(服を着てたり二本足で立っておしゃべりしたりするような猫)のように聡明な牝猫だったので、わたしも母も彼女に夢中だったのだけど、祖父の溺愛ぶりはその比ではなかった。
ミイちゃんは20年やもめ暮らしをしていた祖父のもとへふっと現れた運命の女のようだった。
去年の秋に白血病でミイちゃんは亡くなり、それから祖父は食欲もなくほとんど部屋から出なくなった。
そしてミイちゃんが亡くなってから、毎晩のようにこんな夢を見たそうだ。
夜、祖父が自室で寝ていると、足元でふと物音がする。
上体を起こし暗闇で目を凝らすと、白猫が顔だけドアから覗かせている。
「ああ、ミイ。帰ってきてくれたんだね。こっちにおいで」
と祖父は手を伸ばしてその猫を呼ぶと、その白猫はゆっくり姿をあらわす。
そして、その躰の長いしっぽの先まで見えたとき、「ミイじゃないのか」と決まって目が覚めたらしい。
ミイちゃんは潰れたように短かいしっぽの猫だった。
わたしは母からその話しを聞いて大泣きしてしまった。
一緒にいることの少なかった祖父のことをほとんど知らず、あまり繋がりを感じることができなかったから。
ペットが死ぬたびに部屋に閉じこもって身も世もなく大泣きするのに、22歳にして人の死に初めて泣いた。
そして、祖父もその通りだったようだ。
ああ、わたしはおじいちゃんと、こんなところでこんなにも近い感覚を持って生きていたんだと思うと、泣けて泣けて仕方がなかった。